トルコの強烈なノンフィクションエッセイ『トルコのもう一つの顔』

トルコ

最近衝撃を受けた本『トルコのもう一つの顔』。

「親日」だけじゃない。1980年代から20年以上、トルコを旅した言語・民俗学者による強烈なノンフィクションエッセイ。

私は10代の頃から『未知』とか『自分とは異なるもの』に興味があり、『外国』というのはその興味の尤もたるものでもありました。大学時代からアジアやヨーロッパに住んで、旅して、卒業してからもアジアに住み、とうとう外国人と結婚して海外移住までしてしまいました。

現在アジアに住む私ですが、海外に住みながらもなお『異国』に憧れ続けています。

読書の秋。なんとなく手にとった『トルコのもう一つの顔』が、とんでもない大作で、私のなかの知的好奇心をそれはもう溢れるほどにうめてくれたので本の流れや考察など書き残しておこうと思います。

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一体何者?『トルコのもう一つの顔』の著者、小島剛一さん

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このノンフィクションエッセイは、全て小島剛一さんが1980年代から20年以上にわたって個人的に取材したトルコの様子が描かれています。

小島剛一さんが綴る言葉を読みながら『この人何者!?』と思わない読者はいないはず。

小島剛一さんは、1946年に日本の秋田県に生まれ、1968年以来ずっとフランスに在住されている言語・民俗学者(今は大学教授は引退されたようで執筆を続けながらご自身で研究を続けられている様子)。

1978年にフランスのストラブール大学人文学科で博士号されています。

小島さんは、言語学・民俗学者ですが彼の本を読んでいる限り、日本語と同レベルのほぼネイティブでフランス語やトルコ語を操つれるようです。

何か国語話せますか?という日本人ならではの質問には嫌々すると、後に出版された『漂流するトルコ』でも語っているので、一体何か国語話せるのかは定かではないんですが、フランス語とトルコ語は日本語と同等(少なくともこれらの言語で著書を作り、他人の校正をしたり、辞書が作れるほどには)それから英語はもちろん、トルコの少数民族の言語ら(たくさんあるので)に相当に堪能です。

この『トルコのもう一つの顔』の中では、1980年代から約20年以上、個人的にトルコに通い詰め『トルコの少数民族言語』を研究するなかで起きたこと、体験したことが綴られています。

『トルコの少数民族を研究』ときくと、現代人であれば

へ〜、トルコの少数民族を研究していた人かあ。クルド人とか?

なんて呑気な感想を思いつきそうですが、小島さんがトルコに足繁く通っていた時代、『トルコには少数民族は存在しない。すべての少数民族はトルコ人である。トルコ語以外の言葉は存在しない。すべての言葉は、トルコ語の方言である』というのがトルコ政府の公式な見解だったようで(今もあまり変わっていないかも)トルコ語以外の言葉を話そうもんならそれだけで何十年も牢屋にいられれた時代だったそうです。

そんなトルコで『少数民族』の言葉を研究してきた小島さん。

ご自身も何度も危険な目にあわれていて、好奇心いっぱいの青年(当時)が、危険と隣り合わせでトルコ人、そしてトルコ国内の少数民族の方々と友情を深めたり、裏切られる様子が描かれています。

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『トルコのもう一つの顔』考察

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知らないことだらけだったので、ところどころ気になった箇所にメモをとっていました。

読んで驚いた箇所、感銘を受けたシーンを紹介していきます。

小島先生は著書やブログを読む限り、ご自身の書かれた本を引用されることにすごく厳しい印象を受けたので、引用した箇所は以下のように書いています。もちろん一字一句、本からそのまま引用してます。

引用

『トルコ東部は危ない』というトルコ人の差別意識

トルコの土地ってこんな形をしています。

トルコでは、ヨーロッパに近いイスタンブールやアンカラなどの西部が経済発展&比較的リベラルで外国人も受け入れられている国際大都市。

それに比べて旧ソ連に近い東部は貧しくて、移民が多く危険。少数民族も東部に多く存在している、というのがトルコ人の持っている国内の認識だそうです。

生粋トルコ人(これも概念曖昧だけど)の少数民族への差別はそれはもう半端なくて(差別とかじゃなく犯罪の域を当に超えた迫害&殺戮)

道を聞いたら教えてくれる親切なおじさんに、「トルコ東部にいく」というと、おじさんは「東部は危ないからやめなさい。クルド人っていうのは『虫けら』『狼』『トルコ語もろくに話せないんだから』」などといいます。

こんな衝撃の描写がのっけからあります。

ヨーロッパはトルコをヨーロッパとして認めない

トルコがイスラム教であり『政教分離』を掲げながら、EU加盟を果たしたいにもかかわらず、EU加盟を認めない欧州評議会。

本を読んでいるかぎり、イスラム教徒がEUに加入するのは永遠に叶わない気がします。

ユダヤ・キリストとイスラムは水と油だよね、やっぱり。

ライトな多宗教国家の日本人には理解しようと思っても難しい。

ストラブールに本部を置き、西欧諸国とトルコを加盟国とする欧州評議会でも、幾度となく、民主主義国家の名に恥じないよう、少数民族、特にクルド人への弾圧をやめ、せめて最低限の権利ー母国語を話し、読み書きする権利ーを与えるように、とスウェーデンなどの代表が正式にトルコ政府に抗議勧告をしているが、トルコ政府代表は「クルド民族というものは存在しない」という答弁を続けている。

トルコに事実的領土『北キプロス』への出入国印があると、ギリシャに入れない

イスラエルへの出入国があるとアラブ国家には入れないというのは有名ですが、キプロスのトルコ地区への出入国があると、ギリシャへの入国もできなくなるらしいです。

北キプロスってこの辺。

簡単にいうと、

①キプロス島は元々ギリシャ人が住んでいたのをその昔のオスマン帝国(現トルコ)が領土にする

②その後イギリスがこのキプロス島をオスマン帝国から借りると言いながら勝手に植民地にする

③キプロス民はそもそもギリシャ人なのでギリシャとの統一を願っていたのにイギリスは徹底的に弾圧

④その後第二次世界大戦終わり疲弊したイギリス、全世界に広がる植民地どうしよう…となるもキプロス島はオスマンに借りた土地なわけだし今更ギリシャにもメンツが立たず返すのもおかしいから、キプロス共和国として独立させるか…

⑤トルコ政府「いや、キプロスは我が領土である」

トルコ政府「北キプロス地区の人たちよ、トルコに統一しようじゃないか」(昔キプロス島のほとんどはギリシャ人だったが、オスマン帝国の領土化後はトルコ人の移住が進み、主に北キプロスを中心にトルコ人の居住者が多いので)

⑥トルコ政府の後ろ盾を受けて北キプロス独立

といった感じ。

そんなこんなで、北キプロスに入ると、ギリシャに入れなくなるのだとか。何それ面白い。全然知らなかった。というか世界史はいつも何もかもイギリスが悪い。

出典:キプロス共和国(Republic of Cyprus

「日本人はいいな」トルコ人の本音

1980年当時のトルコ人にとって「海外旅行」は夢のまた夢。

キプロス島の住人が小島さんにかけた言葉がとても印象的でした。

「トルコ人だのギリシャ人だの区別しないで、誰でも好きなところに住んで好きなところへ行けるようにならないもんかね。お前は日本人でフランスに住んでトルコに遊びに来て、それでいつでも好きなときにメイスにも行けるんだろ。世の中不公平にできてるもんだ」

注)メイス…トルコ語で「カステロリゾ島」ギリシャ共和国最東部の島であり、トルコの陸から3kmしか離れてない島↓ここ。

そうなんです…ビルゲイツもいってたけど、世の中って不公平だから生きていくにはそれに慣れるしかないんです。

だけど先進国に、日本に生まれたというのは本当に奇跡で、日本人に生まれただけでそうでない人と比べると明らかに生きやすくて、それだけで圧倒的に幸せだということを忘れたらいけないな、と改めて思いました。

「自分を大きくみせよ」は世界共通(日本以外)

外国人である小島さんがトルコ東部で宿泊していたとき、何のいわれもなく突然夜中に警察に部屋に侵入され、起こされ尋問されたときのエピソード(会話)も印象的でした。

「フランスでなんの仕事をしている」

「欧州評議会で働いている」

口から出まかせを言ったわけではない。これまでの経験で、トルコ社会では、嘘にならない範囲内でなるべく自分の社会的的経済的地位を高くみせたほうが万事うまくいくことがわかっているので、咄嗟の判断でとりわけトルコ人に強い効果を及ぼす国際機関を持ち出したのである。

仕事というのは実は欧州評議会のパンフレットの翻訳と日本向け紹介映画の吹き込みを筑波科学万博のときにやっただけなのだが、

「自分の社会的経済的地位を高く見せたほうが万事うまくいく」のは、世界共通ですね。

「謙譲の美徳」「沈黙は金」は日本人だけ

ここもまた、トルコとヨーロッパの、日本、アジアとは全く違う文化が垣間見れておもしろかったです。

謙譲の美徳という概念はトルコにもヨーロッパにも実生活では存在しない。謙譲は、美徳ではないどころか、トルコでは、愚劣なことである。「私にはなんの取り得もありません」と言えば、「本人が言うのだから間違いない。それにしても気の毒な人だ。なにもわざわざ言わなくてもいいのに」と誰しもが考える。「沈黙は金」も同じく空文である。口数が少ないことは日本では美徳のうちだが、フランスでは「頭が空っぽである証拠」とみなされる。誰にも好かれない。敬遠ではなく「<蔑>遠」される。

小島さんはいたって真面目なトーンなんだけど、思わずプッと吹き出してしまった。

そう考えると、アジア諸国は台湾や中国も含め、もちろん自己アピールは大事だけれど、多くを語らず黙々と仕事に取り組むような人も好まれていると感じます。

最後に

読んでおもしろかった箇所は他にもたくさんあったのだけど、メモにとったのはこれくらいでした。

この感想の1000倍以上、実際の本は面白いので、気になった方はぜひ読んでみてください。

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『トルコのもう一つの顔』の続編として、『漂流するトルコ』も販売されているのですが、こちらはトルコの旅から数十年経ち、十分すぎるくらいの経験を得て、完全武装した(ご自身の身を守るために)大人の小島先生によって書かれている本なので、

『トルコのもう一つの顔』のときのような高揚感は正直ないです。

本当に大変なこと、こういう受け答えをしないと潰されてしまうような環境で数十年生きてきたんだろうなあ…という印象。

とはいえ、『トルコのもう一つの顔』の続きが気になる人は、『漂流するトルコ』は読むと楽しめると思います。

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それでは、また。

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