先日大好きな作家「高野秀行」さんの『未来国家ブータン』を読みまして。
かなり感銘を受けたので、いくつか特に素晴らしいと思った箇所を記録に残しておこうと思います。
ブータンの基本情報
ブータンの国土は、約38,394平方キロメートルで、九州とほぼ同じ大きさ。それに対して人口は75万人ほどしかおらず、人口密度がものすごく低い。
人口ひとりあたりGDPは、3,243ドル(年収約32万円)と、アジアではベトナムやフィリピンに並ぶ。近年経済的な急成長をみせるベトナムなどに比べても、なんだか『幸せな国なんでしょ〜?』というくらいで、存在感の薄いブータン。
でも、ブータンは確実に『未来国家』なんです。
では、先進国に暮らす私たちはブータンから何を学べるのでしょうか?
未来国家ブータンから私たちが学べること
GDPよりもGNH
ブータンは、『GDP』ではなく『GNH』を大切にしている国。
GNHとは、Gross National Happiness(国民総幸福度)のことです。
GNHの考え方は、ブータンの国王4代目『ジグミ・シンゲ・ワンチュク』が在位中の1972年〜2006年までに作られ、以下により形成されています。
- 持続可能かつ公正な社会経済発展
- 環境の保全と持続的な利用
- 文化の保護と促進(再利用)
- 良い統治
サステイナブルとSDGsを大昔から唱えているブータン…
さらにブータンは国民のほとんどが熱心な仏教徒のため、仏教的な思想が強くGNHのほか『欲望をおさえること』と『殺生の禁止=平和主義』が大事だとされています。
欲望を抑えて、生きているものを殺さない、平和主義でいる。仏教の考え方ってつくづく地球に人間が生きる上で大切なことですよね…。
ブータンの国王(4代目)が人として尊敬に値するぎる
ブータンは国王制なので、『国王』こそが国で一番偉い人です。
普通王様ともなればそれはもうたいそう威張っているかと思いきや、この王様(4代目)が本当に尊敬に値する素晴らしすぎる方なんですよね…。
- 王様なのにストイックなまでの質素さで、住んでいるのは『宮殿』とは名ばかりの小さな丸太小屋。乗っているのはふつうのランドクルーザー。
- ブータン人が物欲を自制し、質素な生活を心がける大きな理由は王様を見ているから
- 稀に見るほどに賢い人で、若くしてGNHの概念を考え、環境立国の道を開いた
- 国王自らが国民義勇隊となり、有事の時には先頭に立ち、戦争で高かった
ちなみに2011年に日本を訪れたブータンの国王は、5代目です。GNHの概念を考えた4代目の息子さんですね。
出典:ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク(ブータン5代目国王)
伝統文化と西欧文化が丹念にブレンドされた高度に人口的な国
『未来国家ブータン』の中で著者の高野さんは、ブータンは『伝統文化と西欧文化が丹念にブレンドされた、高度に人口的な国だ。国民がいかにストレスを考えずに幸せな人生を享受していられるかが考え抜かれている』と語っています。
確かに、英語教育をはじめとする学校教育や、伝統医療と西洋医療、そして衣食住までもが平等に保障されていながらにして、共産主義ではなく、あくまで資本主義であり、限りなく民主主義である。お手本にすべき国王が、ブータン国民のあるべき姿を実践してくれていて、人生に何の迷いもない、というのは本当に、
先進国の良いところを取り入れて、悪いところはすべて避けているようで、素晴らしいです。
もちろん、平等な生活を与えるために山奥にも電気を通すなどのインフラが進んできているので、これから70万人の国民全員がスマホなど使い始めて情報の格差が出るとどうなるのか、などまだ懸念点はたくさんありますが、それはどこの国も同じ。
うーん、ダライラマの自伝読みたくなってしまいました。
なぜ国の発展はいつも同じ結果なのか
高野さんは、『私がこれまでに見たアジア・アフリカの国はすべて同じ道筋を歩んでいるように思える』と言います。
まず欧米の植民地になる。ならないまでも、経済的・文化的な植民地といえるほどの影響を受ける。
独立を果たすと、政府は中央集権と富国強兵に努め、マイノリティや政府に反対する者を容赦なく弾圧する。自然の保護より今の景気を言うせし、近代化に邁進する。たいてい独裁政治で抑圧はひどいが暮らしが便利になる。やがた、中産階級が現れ、自由、人権、民主主義などが推進される。
迷信や差別とともに神仏への信仰も薄れていく。個人の自由はさらに広がり、マイノリティはよりきちんと理解されるとともに、共同体や家族は分解し、経済格差は開き、治安は悪くなる。政治が大衆化し、支配層のリーダーシップが失われる。そして、環境が大事だ、伝統文化が大切だという頃には環境も伝統文化も失われているーーーーー。
多くの先進国はすでに一周回ってまた物質的な豊かさよりも心の豊かさや体験を求めてはいるけれど(それはもう物質的な豊かさを埋め終えた人ができることだけど)
人口の増加と経済発展を目指すよりも、残された生き物の保護と生態系、環境を守るために動こうとはしない。どの国も自国の人口が減り、労働者が減り、経済が衰えるのが怖くて、核を作り続けて、でも他の国には作らせないように、なるべく資源を使わないように、という。
環境問題について考えれば考えるほど、わたし一人の力で出来ることなんて限られていて、何の意味もないと悲しくなってしまう。
外出するのにタンブラーを持参したところで、マイストローとマイフォークを持ち歩いたところで、エコバックで買い物をしたところで、月曜日だけお肉を食べない日を作ったところで、牛乳を飲まずにミルクというミルクを植物性のものに切り替えたところで
私はやっぱり週に何度かお肉を食べるし、プラスチックの袋に入ったシャンプーも野菜も買うし、それを使えば毎日のようにゴミが出るし、そもそも自分ひとりがこんなことに罪悪感を抱えなくともマンションの住人たちはゴミの分別すらしないし外にはマイクロプラスチックが溢れてる。
頭のいい夫に話すと『たぶん数十年後には畜産は禁止されて肉は食べられなくなって、いろんなことを我慢する世界が来るんだから今を楽しむんだよ』という。
先進国で暮らす私たちは、これからどのように生きたらいいだろうか?
『未来国家ブータン』および『ブータン』は、私にGNHと、心の奥の方にあった仏教の教えを思い出させてくれた。
- 成長しないのではなく、持続可能かつ公正な範囲での社会経済発展
- 環境の保全と持続的な利用
- 文化の保護と促進(再利用)
- 良い統治
それから、『欲望をできるだけおさえて』『平和主義でいる』を意識して生きることが、自分にもやさしく、地球にも優しくて、
自分の人生を幸福にし、豊かにしてくれることなのかもしれない。
コメント